オーバーホールのご依頼。1998年式T5の巻

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こんにちは、店長のナカです。

ちょっと間が空きましたが、オーバーホールのご依頼の報告です。
今回はこのブロンプトンのオーナーさんへのご報告も兼ねましてブログ記事にさせて頂きました。K様ご了承ありがとうございました。

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さて、本日ご紹介のこの車両。
1998年式ということでお預かりしましたちょっとビンテージ感漂うブロンプトンT5でございます。
メインフレームのロゴステッカーも現行モデルよりやや大きめで、赤文字というのがカッコいいです。

この当時は今のようにM/S/P/Hではなく、ツーリング用(リアキャリアとダイナモライト付き)のT、ライトウェイト(今で言うLバージョン)のL、廉価版のコンパニオンモデルのCの3種類と書く変速段数のバリエーションとなっていました。
今回お預かりした車両はその中でも珍しい5段変速が付いたツーリング用の「T5」です。

今回は変速がきちんと動作しないということでご依頼頂きましたが、同時に緩くなったスポークテンションの張り直しと、リアヒンジ(メインフレームと後ろ三角をつないでいる部分)の長年の使用によるガタの修正も行いました。

では作業開始。
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あまり普段見ることが出来ない車体なので体重測定から。。。
(オーバーホールとは全く関係ありません。量ってみたかったんです)
車重は12.38キロ。現行の物と殆ど変わりませんね。

あらためまして作業開始です。
まずは全体を掃除しまして、リアヒンジの交換からです。
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長年使われてきた車両ですからどうしてもこの部分はガタがでます。前後をつないでいる部分には金属の軸が通って要るのですがそれを支えている部分はプラスチックのブッシュなのでどうしても少しずつすり減ってしまいます。
実は、先日の六角レンチが折れたのはこの車両なんです。。。
緊急事態発生だったので写真は撮っていません。かなり焦って作業してました。
とは言え問題なく軸とブッシュの交換作業は終了。
スムーズに動くようになりました。

続きまして前輪です。
スポークは経年劣化と言いますか、スポークテンションがダルダルになってしまうので、部品を傷めない範囲で再調整しておきました。
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念のためハブも開けてグリスも入れ替えておきました。17年前の車両なのでやはり完璧とは言い難い状況ですが、問題なく乗れる状態を保っていることに驚きです。
余談ですがこの世代はリムがベルギー製。素敵なデザインと質感です。
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さて最後に大ボス。リアの5速ハブです。
そうそう触る機会の無いパーツですので、実は店頭にお持ち頂く前に店にあるジャンクパーツを分解して予習していました。こういうことも有りますので古い部品も捨てずに倉庫に貯めておくようにしています。さらにこのパーツの場合当時の説明書もまだ手に入りますので安心して作業が進められます。
この5段変速ハブはスターメーアーチャーの「スプリンター5」。
以前ご紹介した「AW」と同世代のスチールシェルに刻印がされている格好いいハブです。
現行の製品でたまにカスタマイズで見かける5段変速ハブ(SRF5)に比べると少々レンジが狭めに出来ていてとても使いやすい良いハブなんですよ。

いつものように分解&洗浄。そしてグリス&オイルでヌトヌトになりながら組み立て。
流石に17年ものですのでこれぐらい汚れております。
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スカッと綺麗に汚れを落とします。
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ここからの組み付けの難易度はトップクラス。かなり緊張しております。
普段は両手がオイルでベチャベチャになりますので組み付け中の写真は撮っていないのですが今回は横で田中が撮ってくれました。


この写真で触っているフリー部分の爪などいくつかの部品がややすり減って要るのが目視で判りましたが、まず問題にはならない範囲だろうと判断しましてそのまま組み付けています。

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写真手前が5段変速ハブの核心となる太陽ギヤです。
このギヤ自体がバネで押さえられていて変速レバーを操作するとスライドするのがこのハブの最大の特徴で、実際どんな風に力が伝達されているかはもう私の頭脳では理解できません。。。。

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そしてその外側に遊星ギヤが配置されます。こちらも5段変速なので上下2段になった特殊なギヤです。3段変速のハブは2段になっていません。

で、合体。
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このギヤの塊をさらに内側がギヤになったシェルの中に収めて、
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さらにそのすき間に内側がギヤになった枠を収めて、
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軸を支えているベアリング等を調整したらほぼ完成です。
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動作チェック後は車両に組み付け。
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今回は変速機が正常に動作しないとお伺いしてましたのでここからが本番です。
が、変速ワイヤーの取り付け部分が曲がっていただけで、元の角度に曲げなおせば問題なく動くようになりました。すんなり治って良かったです。ほっ・・・。

作業はこれでほぼ完了。
後は細分の点検や注油など通常の点検作業と仕上げの拭き掃除でした。

因みにこの車両のオーナーさんは現行のブロンプトンもお持ちですが、わざわざこの古いブロンプトンをオークションで入手されたそうです。
私が個人的にスゴイと思うのはこの古い方の車両もきちんと修理しながら実際にお乗り頂いているという点でして、割れた泥よけなんかも(現行のものに変更可能ですがデザインが若干変わるので)ご自身で補修しながらできるだけオリジナルパーツのまま現役で乗って頂いています。
大事に愛情を持ってお使い頂いているのがとても素敵です。

最終点検の際に実際に試乗してチェックをするのですが、5段変速の操作に関しては現行の製品よりもスムーズで使いやすいですし、フレームそのものの寸法も今のブロンプトンよりやや小さいのでとても楽しい乗り味です。
懐古主義的な趣味はあまり無い私ですが久々に欲しくなる1台でした。
K様、貴重な機会を頂きまして誠に有難うございました。